5.初めての夜
乱雑に閉めたブルーのカーテンの隙間から、やにわに眩しい光が部屋に差し込んだ。ベッドで絡みあっている少年達の姿がシルエットとなって、束の間浮かび
上
がる。数秒ほ
ど遅れて、地面を揺るがすような轟音。
それが合図だったかのように、どちらのものともしれない吐息が唇の隙間から零れて、一つに繋がっていた唇を放した。
意識が戻って来ると、名残が残っている顔を見られたくなくてリョーマは毛布に顔を隠した。
すぐに顔を半分だけ出して、
「……ねえ。なんで、キスもしなかったの?」
今なら聞けるかもしれない。頭に浮かんだことを、衝動のままに尋ねた。
「んー。なんとなく恐かったのかも。夢が覚めちゃいそうで……」
二人だけしかいない部屋の中でも聞こえないような小さな声で、千石がぽつりと呟く。
用意してもらったリョーマ専用の枕から頭を離してすぐ隣に身体を近づけると、裸の千石の肩にこつんとぶつかる。
ぴっちりとつけた肌から、自分より少し低い千石の体温が伝わってくる。
ガタガタと、窓ガラスが音を立てる。喧しいので窓の隙間に新聞紙を挟んだのも、ほんの少しの効果しかなかったようだ。風で勢いを増した雨粒が小石でもぶ
つかっているような音を立てて、窓を叩く。小型の台風と天気予報では言っていたけど、外ではかなり激しく雨が降っているみたいだ。外の様子に不安を誘われ
たのか、ざわざわと胸が
騒いで落ち着かな
い。弱気な表情を見せる千石にらしくないものを感じて、言われたリョーマの方がこれが夢のような気がしてきた。
「──俺は、ここにいる。アンタの側に、ちゃんと」
千石の右手を両手でつかんで、自分の胸に押しあてる。
「好きだよ。キヨスミ。アンタにちゃんと言ってなかった気がしてさ。これ、ホントだから」
いつ自覚したのか自分でもよくわからないけど、いまのリョーマは千石が好きだ。
「ありがとう。俺も、リョーマくんのことが大好きだよ」
言われた思いをじっくりと噛みしめているように、千石は目を閉じる。だがすぐに、パッチリと目を開けてはしゃぎ声をあげて、リョーマの腕をつかむ。外が
晴れだったら、夜
中なのにそこら中を駆け出しそうに見えた。
「いま寝たら、すごくイイ夢見れそう! うぅ〜、でも、寝たくないかも」
「遠足前の子供みたい」
言った気持ちは本当なんだけど、告白返しをされるとちょっと恥ずかしい。ついつい素っ気ない対応になる。
「遠足よりわくわくしてる。目が冴えちゃって、眠れないかも」
「俺、疲れたし、先寝るから」
反対向きにふいっと顔を背けて、千石に冷たく背中だけを向ける。
「えー。そんな会話、倦怠期の夫婦がするみたいで、寂しいよ。ラブラブピロートークしようヨv」
調子に乗った千石がリョーマの顔を覗き込もうと、ジリジリとにじり寄ってくる。
「──うるさくて眠れないじゃん! ちょっとは、静かにしてよ」
よりによって、夫婦ってなんだよ。そんなに長いことアンタと一緒にいてやるなんて、誰も言ってないし。
そんなことをぶつぶつ呟いている内に、リョーマに睡魔が訪れた。
動いている内にはだけた毛布をリョーマにかけ直して、独白のように千石はもう一度つぶやいた。
「嬉しすぎて、やっぱり寝れないなぁ」
自然と、千石の顔がほころぶ。少年の形に膨らんだ毛布さえも、愛しい。そっと頭の下に腕を差し入れて、身体を引き寄せた。
起きる気配は、微塵もなかった。この分じゃ、何をしても起きなさそうだ。自分の方を向くように、細工をする。もしかしたら、起こしちゃうかなって不安
だったけど、大丈夫だったみたいだ。
すっかり深い眠りに入っているら
しい。伏せられた長い睫毛は、ぴくりとも動かなかった。
リョーマくんは、俺のモノってマーク。いっぱいついてる。
見えないからいいよねって、千石の勝手な自己判断でつけた背中の辺りが特にすごかった。それを
幾つも発見して、声を出さないようにクスクスと笑いながら一人悦に入る。
規則正しいリョーマの寝息が子守唄のように聞こえて、千石もそのリズムに引き込まれていつのまにか眠りに落ち
ていた。
*
洗い終わった皿を食器棚に元通りに片づけながら、リビングにいるリョーマに声をかける。作動させていないはずの換気扇のダストから、ごうごう
とすごい風の音がキッチンまで聞こえてくる。それだけで、外の物凄さが伝わってきた。
朝から千石の家にリョーマが遊びに来た時は小雨だったのに、一日中遊んで夕飯まで食べ終えた頃には、もうどうしようもない位の土砂降りに変わっていた。
朝のニュースで予告していたように、本格
的に関東
に
台風が上陸したみたいだ。
「……どうしようかな」
ひどく憂鬱そうに、リョーマは窓の外を眺める。バケツを引っ繰り返したというより、プールでも引っ繰り返したんじゃないかって思うような雨がざんざか
降っている。
「この雨の中帰ったら絶対びしょ濡れだし、風邪ひいちゃうって。ウチは寂しいことに俺一人しかいないし、泊まっても全然平気だよ」
「そうだね。そうする」
この暴風雨の中を帰宅することの困難さを悟ったリョーマは素直に返事をして、今日は千石の家に泊まることを携帯で手際良く家に連絡する。
「──千石さんのご両親にくれぐれもよろしくだって」
電話を切って、千石に母親からの返事を伝える。
「了解。帰ってきたら、イチオウ言っとく。こっちには台風がやって来てるって言うのに、ハワイにいるなんてお気楽だよね」
始まりは町内の抽選会で、千石のラッキーで一家四人でハワイにご招待券が当たったことからだった。ハワイに行ってもリョーマくんはいないし、いいように
買い物につきあわされるだけだと行く前に悟った千石は、自分から辞退を申し出たのだ。結局、千石の代わりには、姉の友達が一緒に行く事になったらしい。
そういう訳で、土曜日から明後日の月曜の朝まで家で一人で留守番をすることになった。
姉に邪魔されずに、リョーマくんと仲を深められる絶好のチャンスだった。──あくまで、この時は純粋な意味でだったんだけど。
「お風呂もう沸いたみたいなんだけど、一緒に入っちゃう? ウチのお風呂、結構広いから二人でも大丈夫だよ」
「くつろげないから、一人でいいし」
「身体とか洗ってあげるよ。あ、シャンプーもリンスもトリートメントも!」
「ケッコウです」
様々なサービスをつけると新聞の勧誘のように訴えられるが、リョーマは取り付くしまもなくキッパリと断った。
「オレとリョーマくんの仲で、遠慮しないでいいのにー。んじゃ、また今度ってことで」
千石が先頭に立って、お風呂まで案内する。
「着替えはお風呂から上がるまでに持って来るから、先に入ってて」
リョーマがお礼を言うとすぐに、千石は着替えを取りに部屋に向かって行った。
風呂上りで上気した身体に、借りたTシャツをパタパタさせて胸の中に風を送る。腰の下までずり落ちてきたズボンを腹の方に引き上げてから、部屋のドアを
開けた。
「リョーマくん、おかえり〜。お風呂、どうだった?」
「よかったよ。アンタも、温かい内に入ってくれば?」
「ん。そうする」
部屋から出ていく間際に、リョーマをじっと見つめる。
「やっぱ、ちょっと大きかったか。これでも、小さいの選んだんだけどね」
袖をまくったりしてずるずるとした格好になっているのを見て、軽く笑った。
「体格が違うんだから、ショウガナイでしょ」
自分でも解っているのか、リョーマの言葉尻が荒くなる。憤然とした顔を、千石に向ける。
「いいや。全然悪くないよ。カワイイなーって思って」
へらっとした笑みを見せる千石。年の差があるからしょうがないのは解っているけど、自分で努力してすぐに解決する問題じゃないから腹が立つ。
「バカにすんなよ。俺は、成長が止まったアンタと違って、もっとデカくなるんだから」
対抗するように、リョーマはニヤリと笑う。
「うぎゃっ! リョーマくんってば、そんな不吉なこと言わないでよ! 背伸びないの、これでも気にしてんだから。
壇くんとかにまで抜かれたら、シャレになんないよ、マジで」
「そうなるのも、あっという間かもね」
ぐっと、千石が押し黙ったのを見て鬱憤が晴れたリョーマは、くすくすと可笑しげに笑う。
「ヒドイよなぁ。布団も敷いといたけど、ベットでもいいし、どっちでも好きな方使ってね」
部屋に戻ると、オレンジ色の薄暗い明かりだけが点いていた。
「……もう、寝ちゃった……かな?」
小さな声で呟くと、のそりとベットの上の人影がそれを受けて起きあがった。
「ゴメンね。起こしちゃった?」
ベットの端に座って、リョーマの機嫌を窺う。
「起きてたし、別にいいよ」
それから、部屋に沈黙が訪れる。ふいに目があって、自然と惹きつけられるように頬に触れ、拒まれる気配を感じなかったのでそのままキスをしていた。
「アンタ、……牛乳飲んだ……?」
思わずと言った拍子でそう言って、リョーマははっと手で口を押さえる。
「あ……、ああ、うん。背伸ばそうかなって。風呂上りの牛乳って、すごくオイシイよ? マジ、お薦め」
「…………信じらんない」
牛乳なんて、生臭くて気持ち悪いだけだって思ってたのに、──イヤじゃなかった。キスされたのに、それも。
「いきなり、キスしてメンゴ。怒った?」
「怒ってないし、別にイヤじゃない」
恐る恐るといった様子でリョーマの肩に千石が手を伸ばして、唇をもう一度押し当てた。あっさりと離れていく唇を追いかけて、リョーマの方からもう一度キ
スをした。
「キスだけじゃ、もう足んない。もっと教えて、アンタのこと」
千石をキツク見据えたまま、Tシャツを鷲掴みでぐいっと引っ張った。信じられないとばかりに、千石は目を瞬かせる。
「リョーマくん、それ、すごい殺し文句。嫌って言っても、もう止めてあげられないから」
力いっぱい抱きしめて、耳元で「……ごめんね」と囁いた。
「──なんで、あやまんの?」
「後で、怒られそうな気がするから、その保険……かな」
今度はリョーマの返答を聞かず、呼吸を奪うように強引にキスをした。
はー。超緊張する。好きな子とするのは、初めてだからかな。俺、慣れてるはずなのに、カッコ悪いな。リョーマくん、肌白いし、超綺麗。日焼けしない
性質なのかな。
剥き出しにした肌を、手で一つ一つ確認でもするようになぞっていく。
「ウルサイ。アンタ、しゃべりすぎ」
「えっ? もしかして、声に出てたとか?」
赤い顔で、コクコクとリョーマは頷いた。
「リョーマくんって、どこもかしこも可愛い」
上からリョーマを見下ろして、ニコッと笑う。
「男にそんなこと言うなよ」
目元を朱に染めて、笑みを浮かべたままの男を睨みつける。
「リョーマくんだから、言ってるんだよ」
可愛いだなんて、そんなことを人から言われるのは屈辱的だし、バカにされてると思うのに、──どうして、どこか心が浮き立つモノがあるんだろう。この男
から見られない場所に、今すぐ逃げたくもなる。だけど、ここに居たくて。
「俺も、リョーマくんのこともっと知りたいんだ。全部、教えて……」
言葉と共に、唇でもリョーマの身体に幾つも熱を起こしていく。
「だって……」
いままで味わったことのない感覚や尾骨の方から湧きあがる甘い痺れに、リョーマは動揺を隠せない。
「なんにも、隠せないよ。リョーマくんの前では、俺だって。ねえ……、教えて」
優しく促すような声に誘われて、リョーマは頷いていた。
「──感じる?」
反応している身体を見れば解るはずなのに、わざわざそんなことを問いかけられるのが恥ずかしくて、リョーマはぎゅっと目を瞑ったまま首を振る。シーツを
掴んでいる指にも、思わず力が入る。
ふふっと笑う千石の吐息が顔にかかる。少しムッとしながら閉じていた目を開けると、意外に真剣な顔の千石が視界に映った。
「俺は、感じてるよ」
熱くて掠れたような吐息。千石の身体が上に重なったのを感じる。ふいに、リョーマの身体がビクッと強張ったような反応をする。太腿に押しつけられた熱い
塊。自分のものと同じように、ドクドクと
脈動している。
「アンタは、緊張してないの?」
こんなことは初めてだから一つ一つに戸惑いが隠せないのに、千石は落ち着いていて慣れているように見えた。リョーマだけが緊張しているみたいで、それが
悔しくもあった。
リョーマの左手を高鳴る胸の鼓動に押し付けて、千石も同じように胸に耳を押しあてる。
いつもより速く激しく高鳴っている胸の音。命が動いている証拠。
「わかる? 俺もリョーマくんと一緒だよ。緊張してるけど、それ以上にすごく嬉しいから」
リョーマくんが俺で感じてると嬉しい。恥ずかしがらなくたっていいよ。俺も、そうだし。
熱を持っているものにリョーマの手を誘導して上から自分の手も添えて、手を重ねたままで扱きあげていく。
最初に触れた時よりも、硬くなって大きさを増すのがわかった。それと共に、千石の呼吸が熱く荒くなっていくのを感じる。
手の中で一瞬膨れたような感覚の後、熱い飛沫がかかった。身体から力が抜けたのか、リョーマにもろに体重がかかる。重たくてそこから抜けだそうとしたけ
ど出来なくて、せめてもの対抗策にと身体を斜めにして体重がかかるのを分散させた。
掌から微かに粘りを引いて零れ落ちるものに、恐る恐る舌を這わせてみた。
「……マズイんだ、これ」
そりゃ、美味しいとは思ってなかったけど……。牛乳とどっちがマシなのかな。
チロチロと猫が油を舐めるように汚れた掌を舐めているリョーマを見て、虚脱状態から千石はふっと我に返った。動揺したまま枕元のティッシュの箱から数枚
ティッシュを引き抜いて、自分が出した汚れを拭き取る。
「うわぁ! 夢中だったから、ゴメンね。気持ち悪くなかった?」
「別に、いいし。そんなことで、いちいち謝んなよ」
リョーマの気分を害してないようで、よかったーっと、千石は安堵する。
すぐに何かを企んでいるような笑顔を浮かべて、
「お返しに、リョーマくんも気持ちよくさせてあげる」
同じようにリョーマのものに手を添えて、反応を高めていく。強弱をつけていくと、ビクビクと敏感な反応を見せる。
「……ぅっ、……俺は、…いいって」
「ここまで来て、リョーマくんもいちいち遠慮しないで」
同意を求めるように、ねっと言って首を傾げる。
人のセリフパクんなよ。そう言いたかったのに、まともな言葉を今は言えそうになかった。
「あっ…、そんなトコ……、やぁっ…あぁ」
執拗に裏筋を刺激されて、強い刺激で腰が痺れそうだ。先端の穴を広げるように皮を伸ばして、広がった敏感な部分に指の腹をぐりぐりと押し当てられて、悲
鳴のような高い声をあげた。
「……あっ、あっ、も…ぉ……む…」
限界を察したのか、あっさりと千石が手を放す。
やっと解放された。一時だけ安堵したのもつかの間で、おそってきた強い刺激にただただ声を出し続ける。温かい咥内が性器に絡みついてくる快感は格別で、
経験の少ないリョーマにはひとたまりもなかった。
絞り取るように吸引された瞬間、抵抗する間もなく口の
中に全てを解き放っていた。
喉が動いて全てを飲み込む所まで、止める間もなく呆然と見ていた。
「うん。美味しい」
舌なめずりまでして、ニッコリと笑う千石。
「美味しいわけないだろ! そんなもん飲むなよな」
「リョーマくんだって、オレの舐めたじゃん」
「あれは……、その、ちょっとした興味って言うか……」
論破できず、口ごもる。でも、生理的に嫌というか、落ち着かない。よりによって、美味しいとかわけわかんないこと言うし。
「ひゃっ!」
急に思いも寄らない場所に指を突き立てられて、悲鳴をあげる。
「準備しないと痛いから、ちょっと我慢して」
弄りやすいようにする為か、足の間に入った千石に膝を持たれて足を大きく広げられていく。
ありえないんだけど。本当に、こんなことする必要があるわけ?
内部に入った指が動く度に、絶えず苦痛と不快感を与える。奥歯をぎりっと噛みしめる。
苦痛を顔に滲ませるリョーマに気づいて、
「今日は、やめとく? リョーマくんが嫌なら、止めるよ」
「嫌って言っても止めないって、アンタが言ったんだろ」
冷や汗をこらえて、心配そうに見つめる千石の視線を受け入れず頑とした態度で突っぱねる。
意地っ張りな少年に顔を見られないように、千石はほくそ笑む。
探っていた指にふいに他とは違う感触に気づいて、ひとさし指の先で引っかくようにそこに触
れると、び
くりと身体がいままでにない反応を見せる。痛みで萎えていたはずのものが、頭を持ちあげてきていた。その反応に支援を得たような感じがして、狙って強めに
そこを刺激すると面白いように反応する。
「あっ! ……やっ、…そこ……、あっ」
「ここ、感じるんだ、ふぅん」
感じるとか何回も連呼すんなよ。恥ずかしいだろうが!バカ!
圧迫感が先程より強まる。二本目が入れられたらしい。
弱点を知った千石は苦痛を軽減する為に快感を引き出しながら、ゆっくりと内部を拡張していく。空い
ている左手では、前の方も思い出したように刺激してやる。
「初めてなら、後ろからの方が痛くないから。ゆっくりと呼吸してて。そうすれば、少しは楽になれるから」
潤いが足りないと思って、蕾にたっぷりと唾液を塗り込める。自分のものにも手でぬめりを擦りつけて、先を押しあてる。
少年の背中に力が入って強張っているのを感じて、自然と力が抜けるようにそのままの姿勢で髪を撫でて気持ちを落ち着かせる。
……そろそろいいかな。頃合を見計らって、じりじりと押し進める。
ゴムで強く圧迫されているように、ぎゅうぎゅうに締めつけられる。背中に玉のような汗がじっとりと浮かんで
いるのを見て、受け入れたことのないものを受け入れさせられている少年の苦痛を察し、動かしたくなるのをじっと我慢する。
「リョーマくん、大丈夫?」
「………だいじょう…ぶ…なわけ、ない…だろ」
減らず口が叩けるなら、まだ元気な方だ。ずずっと、奥まで一気に押し進める。
「……んぐっ! 動かす…なよ、バカ!」
痛いって言ってるのに、信じられない。千石を跳ね除けることも出来なくて、言われたように深い呼吸を繰り返す。
「全部、リョーマくんの中に入ったよ」
感動した勢いでリョーマの耳元でため息のように熱く囁いて、キスを幾つも落とす。
そう言われて、限界まで押し広げられ侵食されて、身体の内に千石がいるのをまざまざと実感してしまう。熱くて、お腹の中を突き破られたように苦しい。動
かされる度に、悲鳴ともつかないものが喉から知らず知らずの間に迸る。
その中に、ただ苦痛だけではなく嬉しさや充実感が混じっているのを発見して、こんなにこの男のことが俺は好きだったんだと、リョーマ自身でも驚くくらい
溢れ出す千石への想いを感じていた。
朝起きてすぐに、リョーマくんが側にいることを一番に確認する。穏やかな寝息を立てているのを見て、安堵したように息を吐く。
どこにも、逝ったりしなんかしないで。お願いだから、俺からリョーマくんだけは奪わないで。
祈り方なんか知らないのに、窓の方を向いて両手をからめる。
神様に祈っても届かないことなんて、とうに知っているのに──。それでも、あるかないかの奇跡を願って祈ってしまうのは、何の力も持っていない弱い人間だから。
寝相が悪くてベッドから落ちそうになっている身体を引き寄せて、ぎゅっと抱きしめる。滑らかな素肌。昨日全てを知った身体。空へと還っていかないよう
に、背中にある翼の名残に跡が残るほどきつく口づけた。
あったかい。生きている。ずっといつまでも、こうしていたい。
彼と初めて結ばれたとても幸福な朝に、千石は切ない祈りを捧げていた。
嵐の夜にではなくて、台風の夜。にぎやかな初夜でした。
06/06/10 up