・・・・・・来なければ良かった。
華やかに飾られた教室の中を覗きこんだリョーマは、すぐさま思った。思えば、そこで踵を返していれば良かったのだ。
あの男と付きあい始めてから、後悔というものをよくし続けている気がする。
まだ別れてなかったの?と先輩達に驚かれようと、ラブラブなんだと先輩達に冷やかされようと、付きあい始めてしまったものはもう仕方がない。
その事に関し
てだけは、後悔はしない。・・・・・・・・・・・・まあ、いまの所。
11月の第一週の土曜日。山吹中学校で、学園祭が開かれていた。青春学園とは日数もずれているし、この日は丁度暇だった。
タダ券だから、これで甘い物でもオレのクラスに食べに来て。喫茶店やってるからって、言われたから来たのに。
来てみれば、喫茶店は喫茶店だけど、いま流行しているらしいメイドカフェだった。
赤のふんわりしたプリーツスカートの上に、レースが縁取られた白いエプロンをつけている。膝上まである白のロングソックスに、
靴だけ普段のローファーなのは費用の節約らしい。周りの女の子がメイドの衣装として、それをお揃いで着ているのは、まあいいとしてもだ。リョーマも男だ
し、女の子の可愛い姿を見るのは普通に好きだ。
だからといって、なんでこの男まで着ていなきゃならないんだろうか・・・。
従業員が全員女の子の中、お客というかご主人様達に完璧な営業スマイルでニコニコと微笑んでいる千石清純がいた。それも、周りの女の子とお揃いの完璧なメ
イドスタイルで。
気分を出すつもりなのか、いつものオレンジ頭を隠すように茶髪の肩まであるウィッグまでつけて接客をしていた。
固まったまま見ているリョーマの目の前で、どんどん千石に指名が入っていく。なぜだかよく解らないけど、人気があるらしい。
「清音!3番テーブルのご主人様がご指名よ」
清音と言うのが源氏名というか、千石のメイド名らしい。
「ハイハイー!ご主人様、お帰りなさいませ〜vコーヒーのミルクとお砂糖は、どうしますか?」
「両方で」
「喜んでご奉仕させて頂きます。混ぜ混ぜもしますか?」
膝まづいて、お客の方にちらっと上目遣いで尋ねる。もはや、プロ並な接客テクニックだった。
「・・・ああ」
「は〜い。混ぜ混ぜ完了致しました。ゆっくりと寛いでいってくださいね!」
ニッコリという擬音がつきそうなとびっきりの明るいスマイルだ。
「じゃあ、ケーキも頼もうかな」
清音の笑顔にあてられたお客は、うまうまと注文を追加する。さりげなく周囲の女の子に親指を立てて、自分の手柄を誇った。
貴方の恋人が、メイドさんの格好をしてくれた事がありますか?
「はい」と答える人も、中にはそれはいるだろう。コスプレ好きの人種と言うのは、世の中に着実に存在する。
・・・だけど、同性の恋人がしてくれるなんて滅多にない事に違いない。
その滅多にが、滅多やたらにあるのが千石だけども。
学園祭にメイド喫茶をやろうって提案したのは、この男じゃないだろうかと、リョーマは疑わずにいられない。
出し物を決める時に、「はいはいはいー!」と積極的に手を挙げている千石の姿が夢にまで出そうな位浮かんでくるから、きっとそうだと思う。
店が混雑してきたのと、あの接客はキツイなと中に入るのを躊躇していると、清音・・・いや、千石に先に気付かれた。
「リョーマさまが帰って来るのを、ずーっと待ってたんですよv」
いつもより、ワントーン所かツートーン位高い声だ。一斉にリョーマの方に物珍しげな視線が集まってくる。それも、リョーマはリョーマで目立っていたから
だ。倫子に着せられたピンクとブラックのボーダーシャツに、ダボダボの白いハーフパンツ姿で、学園祭なので制服ではなくて私服だった。普段は男子用の学生
服を着ているから綺麗な顔をしていても男だと解ったが、この服装なのでリョーマをより中性的に見せていた。メイドさんとリョーマへ店内の視線が分散され
る。
・・・・・・あぁ、今すぐ帰りたい。この注目を全部なかった事にしたい・・・。
店内の刺すような視線は全部千石の所為だと、そんなことなどまったく知らないリョーマは思っていた。
席を作ってくれようとする千石のクラスメイトの好意を必死で断る。
一体、どんな羞恥プレイになるんだか、解ったものじゃない。
慣れていないリョーマの反応を見て、可愛いー!と言う女の子の声を背中で聞きながら、教室から逃げるように出た。そのおまけに、頼んでもいないメイドが一
人ついてきた。当然、清音と言う名の千石だ。
休憩
をもらったと調子よく語る千石に連れて来られたのは社会の準備室で、白いカーテンで間仕切りして着替えをするスペースが作られていた。隅っこには、本来の
この部屋の主役のぐるぐるに巻かれた地図帳や地球儀や資料集が置いてあった。学園祭の間だけ休憩出来るようにというつもりなのか、
机と椅子が運び込ま
れていた。
「折角来てくれたのに、あんまり構ってあげられなくてごめんね。なんか繁盛しちゃっててさ。丁度、十分休憩もらったんだ」
「別に、いいよ。適当にフラフラして帰るし」
メイド服を着ている千石の姿は、やっぱり見慣れない。見慣れたくもないけど。
「オレ、超大人気だから、ご主人様の接待に帰るけど。・・・リョーマくんいい?」
首を傾げると、さらりと茶髪のウィッグが自然に揺れる。
千石なんだけど、唇に塗ってあるピンクの口紅や薄く化粧した顔を見ると変な感じがする。似合ってない訳じゃなくて、どちらかと言えば綺麗に見えるから、普
段の顔と違って違和感があった。
「勝手に行けば?」
吐き捨てるように素っ気なく言う。
「離してくれないと、行けないんだけどなー」
無意識に掴んでいたフリフリの白いエプロンから、不覚だという顔をして、リョーマはパッと手を離した。
うへへっと、千石は顔をくしゃっとさせて笑った。引き止めようとしてくれたその手が嬉しかったから。
立っているリョーマの前に膝をついて、膝立ちになる。
そこから上目遣いでリョーマを仰ぎ見て、挑発的にペロッと赤い舌を突き出して見せる。
そんな千石をみて、リョーマはすごく嫌な予感を感じる。
「オレは、リョーマさま専用のメイドさんです。早速、ご奉仕開始しますv」
「いいって。俺もう帰るから!」
「遠慮しないでくださいよー」
ご主人様の言う事をまったく聞く気がないメイドは着替えをするスペースに眼をつけて、ご主人様を下から抱きかかえて運ぶ。
片手でカーテンを閉めた後に、「お人払い完了でーす」とニコッと笑った。
逃げられないように腰を掴んで、ズボンの上からリョーマの中心部分を熱を煽り立てるように、手で下から上に向かって撫で擦る。ツヤツヤとマニキュアでピン
クに塗られた爪が見えて、その手先が余計に厭らしかった。
「ちょっ、こんな所で、やめろよ!」
ゾクリと、千石の愛撫に慣れている身体が身震いする。
手際よくファスナーを下ろして下着の合わせ目から手をするっと滑り込ませて、まだ柔らかいリョーマのペニスを握りしめてキュッキュッと刺激する。
「オレにお任せください。特別に気持ちよーくさせてあげます」
そんな特別いらない。ふざけんな!というリョーマの意見は黙殺して、本格的にご奉仕体制に突入する。手で剥き出しにさせた先端にそっと口を近づけて、横か
ら咥える。まるで食べるかのように、柔らかく唇で食む。
「・・・・っ・・・んん・・・・やめっ・・・あッ・・・・」
ツボを心得ている千石の舌技は巧みで、身体の力が抜けてくる。
ざわざわと賑やかな廊下の雑音が聞こえてくる。それと同じ位大きく千石の舌を使う音が耳に聞こえてきて、白昼堂々こんな事をされているのが恥ずかしさと
なって身体に反応となって現れる。
「あ、大きくなってきてますよ。気持ちイイですか?」
それを明るく嬉しそうな声で、相変わらずのメイドさん気分で千石が指摘してくる。
教室の中に聞こえてくるって事はこっちの音も聞こえるはずで、手を口で噛み閉めて必死に出ようとする声を抑える。
文句を言おうとする声すら喘ぎ声に変わりそうで、言いたかった文句も押し殺す。千石のいつもより長い髪の毛を掴む腕に、自然と力が入る。
なんとか気をそらそうと努力しても視線がいくのは千石の所で、ピンクの濡れた唇に視線が吸い寄せられる。
そんなリョーマの視線に気づいているのか、思わせぶりな上目遣いでリョーマを見ながら唇から出入りする様を見せつける。
(・・・絶対、確信犯だ。・・・・・・ほんと、タチが悪いんだから)
思考が快感に翻弄されて溶けそう。なにかを考えている余裕がなくなっていく。
「ぁ・・・やっ・・・だ・・・、・・・も・・・ぉ、はな・・・・し・・・・・・」
何度かリョーマの身体がビクビクと痙攣したかと思うと、千石の口内に放っていた。
「う・・・っはぁ・・・・、あ!飲むなって・・・・。キタナイし」
忙しない呼吸をする中で涙眼になった片目を開けてみると、千石の喉がゴクリと動くのを見て止めたけど遅かったようだ。
「リョーマさま、ご馳走さまです」
最後まで役になりきる千石に呆れて、一気に身体が脱力する。
アフターサービスのつもりなのか、リョーマの呼吸が落ち着くまで抱き締めたまま背中を優しく擦ってくれた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、あ・・・、えーと・・・、キヨスミは?」
ようやく少し興奮が冷めて千石の顔を見られるようになって、思い出したことがあった。自分だけでいいのかなと、ちらっと千石の様子を窺った。
「オレ?リョーマくんのお誘いには是非是非何が何でも応えたいんだけど、流石に1時間近くサボってたらマズイしね。もうオレとしては、ものすごい残念だけ
ど。でもさ、今日これが終わったら暇だから、オレがご主人さまでリョーマくんがメイドさんでやろうね!ねっ、そうしよっ!それがいいと思うんだ」
今までで一番切ない顔をする。こんなに可愛いリョーマからのお誘いは、滅多にないからだ。
ほんと、勿体無いなー。このまま近くのホテルに、お持ち帰りしちゃいたい。メイドという職業を選んでしまった自分の運命を少しだけ呪った。
「・・・そんなことするわけないだろ!変なことばっか考えてないでよね!」
先ほどまでの行為の所為と、うっかり自分から誘っちゃったのもあって、リョーマの顔が真っ赤だ。
「そんなー、させるだけさせて帰っちゃうなんて、リョーマさまのイ・ケ・ズ」
くねくねと身体を捩じらせながら、リョーマの赤くなっている頬をツンツンと突っつく。
「バカッ!」
千石の方へ振り向きもせずに、どこに行くのか自分でも解っていないまま部屋を飛び出した。
リョーマくんには来て欲しかったけど、一人で山吹をふらふらしてるとナンパとかされて危ないもんね。一応よ
かったのかな。
弾丸のように去って行く後姿を見ながら、そんなことを一番の危険人物の千石は思っていた。
ちょっとは、楽しめたし。後で宥めるのが大変だけど、こういうのが男の甲斐性だよね。うんうん。
ルンルンとした機嫌がいい足取りで、お客の群れで混雑する廊下を歩く。他のどうでもいいご主人様達が待っているお店へと、自分のクラスの宣伝をしながら戻
ることにした。
「帰って来るの遅かったけど、何してたの?超忙しくて、皆大変だったんだから!」
眦をキリキリと吊りあげて、中でオーダーを必死にさばいていたクラスメイトが千石の前に詰め寄ってくる。
「え?」
休憩が十分だけだったのに、楽しくてオーバーしていたようだ。ナニをしていたかなんて、言える訳もない。もちろん、言わないけど。
「ちょーっと、栄養補給にね。メンゴメンゴ」
舌で口の周りを何かを思い出すようにペロッと舐める。下手に出て、ひたすら謝る。
今日のリョーマくんの補給は、40%って所かな。終わったら、完全補給する為に会いに行かなきゃね。
「食事休憩まだなのに、キヨってばちゃっかりしてるんだから」
憎めない千石の態度に怒りを消して、ふぅと息を吐いた。
「味見だけだもん」
さっきまでの事を窺わせないようなけろっとした顔で、無邪気に笑う。
「あ、キヨ・・・口紅取れてる!出る前に、口紅だけ塗り直したら?」
「マジで!?うわぁー、恥ずかしい」
見てみなよと貸してもらった手鏡で、自分の顔を見ると口紅が所々剥げていた。
これって、やっぱさっきのアレだよね?アレしかないよね・・・。思い出すと恥ずかしいかも。普段そんなことないし。
「キヨって、やっぱそっち系?ま、似会ってるからそんなにキモくはないけど」
千石の男にしては綺麗な顔立ちを見ながら、納得が行ったような顔で頷いた。
「ちょ、ちょっと!そう言うんじゃないって!そりゃ、こういうの着るの好きだけど・・・、でも違うから!」
「大丈夫だって。秘密にしとくからさ」
こういう時に一番信用が置けないような理解のある笑顔で、しっかりと確約してくれた。
よろしくねと頼みながら、この噂はどこまで広がるんだろうと思って、ははっと力なく笑った。
これって、自業自得って言うのかなぁ・・・。
まあ、あとでリョーマくんと楽しいこと出来ればいいかと、千石はどこまでも前向きな男だった。
学園祭に清純のクラスは、満場一致でメイドカフェですv
もちろん、この男は嬉々として着てしまいます!愛嬌もあるので、ご主人様達にも大人気v
そして、何故か似合ってしまうのが清純!こんな男が嫌いになれないリョマです(^^)
ついでというかメインで、メイドさんとご主人さまごっこで楽しんでしまいます(笑)
05.11.20→06.05.05 改稿 up
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