ニタモノドウシ



「キミがなんであの男とつきあっているのか、僕は理解に苦しむよ。キミなら、他にいくらでもまともな相手はいるだろ?」
怒らせる為に、わざとせせら笑うように言ったのに、返ってきたのは沈黙だ。後輩のいつもと同じ反応。
いっそ潔い程周囲に無関心なのが気になって、怒りでも悲しみでもなんらかの反応を返すまで試したくなってしまう。
いまの所、好奇心に囚われた僕の退屈凌ぎになっている。どんなことなら、この後輩は反応を返すのだろうかと。

越前が他校の千石と一緒に歩いているのをみたのは、ほんの偶然だ。
買い忘れた物があるからと、母親に買い物を言いつけられた帰り道で、向かいの通りを越前が千石と連れ立って歩いているのを目撃したのだ。
いつもと同じクールな越前の表情。ただ一つ違ったのは、二人の間でしっかりと繋がれた手だった。
それがなければ、僕もこの二人が連れだとは考えもしなかった。
軽くて女好きの千石と、テニスにしか興味を示さない越前に、以前の対戦相手だった以外の関係があるとは思っていなかったから。
越前の反応がなくても飄々とした顔で話し掛け続ける千石と、それを禄に相手もしない越前の間に、目に見えない何かがありそうに見えた。


「……先輩って、結構イイ人っスね」
「え?なんで、そんなこと言うの?」
後輩から初めて返ってきた芳しい反応。僕の睨んだ通りに、キーポイントは千石との関係かもしれない。ようやく返ってきた反応を引き伸ばそうと試みる。
「特に、意味はないっすよ。それじゃ」
失礼しますと言う代わりに、頭を下げて先輩の前から退出する。




「リョーマくん、やっほ〜!今日は、出て来るのがちょっと遅かったね」
校門を出て来たリョーマに駈け寄る。そして、訝しげに首を傾げる。
「…なにかあった?いつものポーカーフェイスが崩れてるよ。リョーマくんがそんな顔見せるなんて、珍しいよね」
「別に…」
ふぅん。茶色い目を愉快そうに、千石が横に動かした。


いままでののん気な様子が嘘みたいな態度で、路地の中へ入るように強引に手を引っ張られる。
冷たいコンクリートの壁に縫いとめるように小柄な身体を押しつけて、何の言葉もなくただ乱暴に唇をあわせる。
するとリョーマの方から進んで唇を開いて、男の強引な侵入を易々と受け入れた。
それに力を得て、益々口内への侵入は激しいものとなった。
二人の間で、時折洩らす吐息と口内を犯しあっているような粘着質な音が響く。
少年の唇の脇から、どちらのものともしれない唾液が溢れる。それを男が舌で綺麗に舐めとった。
貪り終えて満足した男は、ようやくその唇を離した。


「今日は、どこ行く?それとも、いまからラブホでも行っちゃおうか?この時間、サービスタイムになってるらしいよ」
「どこでもいい」
さっきまでの激しい行為を忘れたような明るい声をかける男に、これまたその事を感じさせない様子で素っ気なく相手をする。
「リョーマくんってば、マジ冷たいよなぁ。オレみたいに、たくさんしゃべってもいいと思うよ。折角二人でいるんだから、もっと会話のキャッチボールって言 うものを楽しもうよ」
そのまま何も言わずに、男の右手に少年は左手を繋ぐ。
逃さないとでも言い聞かせるかのように、見た目からは解らないような強い力で握り返された。



明るさを纏わせる男の瞳の奥に、虚ろさを見出した。
まるで、合わせ鏡のようにそっくりな自分がその瞳に映っていて、初めてわかった。
俺達は、とても似た者同士だ。誰の事も信用していない。自分自身の事さえも。
その癖、自分以外の誰かを孤独の道連れに求めたがる。
そんな人間が、まともな人間と関係を継続出来るわけもなかった。
キヨスミが俺を求めて、俺がキヨスミを求めている限り、その間だけは繋がっていられる。その方がわかりやすい。


お互いの傷を舐めあって噛みあうだけのこの関係に、未来などない。


───あるのは、繋がれる現在(いま)だけ。






長年の憧れの雰囲気系に挑戦した物。壊れキヨと壊れりょまで、ダークだけど結局はラブラブな予感。
06.01.14 up

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