「とりっくおあとりーと。──ねえ、どんな意味だっけ?」
棒つきのキャンデーを舌でペロペロと舐めながら、リョーマの訪れを知った千石が玄関に現れた。
玄関の上がり口で靴を脱ぎながら、さほど考えずに答える。
「お菓子をくれないと悪戯しちゃうよじゃなかった? あ、そういや、今日だっけ」
チョコ持ってるからあげる。
慌ててチョコをポケットから取り出して、千石に渡す。すごく嫌な予感がしたのだ。
「へえ。犯してくれないとイタズラしちゃうって、それはイケナイな。そんなことされたら、困っちゃうよ」
予感的中。千石は、暗い笑顔を浮かべている。
靴を履きなおす間もなく、さっき閉めたばかりのドアを開けて逃げようと後退りする。
身体に衝撃が走り、ドガッと凄い勢いで玄関扉に身体を押しつけられた。
「なにすんだよ!」
勝手な男を、キツイ視線でねめつける。
リョーマは、知らない。
その反抗的な視線が、どれだけ男の征服欲を余計に煽ったかを──。
「えー? ナニって、これからスルってことかな」
金属音をカチャカチャさせながらベルトのバックルを外し、リョーマの短パンを下ろしやすいように手際良く緩める。
この先何をされるのかが本当にわかって、押さえつけられているリョーマはもがき出す。
「なんで……、こんなのやめろよ! やだっ!」
何も答えない千石。
薄く笑ったかと思えば、短パンと一緒に下着をずり下げられる。
外の風が吹き込んで来る玄関で、下半身だけをさらしている。恐怖なのか寒さなのか、鳥肌がぷつぷつと浮くのを感じた気がした。どうして、自分がいきなり
こんな目
に合わされるのかがわからない。
身じろぎしても力の差があって、突き放すことができない。その必死なリョーマの抵抗を称して、お尻振って誘ってるのー?と揶揄され、顔を更なる羞
恥に染めた。
さっきまで千石が舐めていた飴を口の中に、ふいに入れられる。ラズベリー味だとか味を味わう間もなく、千石が入れやすいように身体の向きを変えられて尻
だけを曝け出すような格好にされて、何の愛撫もなしに無理矢理突き入れられた。
脳天を、稲妻のように激痛が貫く。一瞬、ブラックアウトして、すぐに現実が戻って来る。
「────ッ!」
細くて狭い穴を無理に拡張されて、後腔がひりつくような痛みを訴える。飴を思い切り噛んでしまって、口の中に欠けた飴がじゃりじゃりと広がる。舌も少し
切ったのか、しょっぱい味が混じる。痛みを少しでも流すように、肩で呼吸をする。
「大きな声出すと様子見に人が来ちゃうかもしんないから、もうちょっと声抑えた方がいいヨ?」
ここ、家賃高い割に、壁薄いんだよね〜。
世間話のように軽く話しながら、逃げる腰を抱えて容赦なく大きくグラインドし中で快楽を貪る。挿入する際にどこかが切れたのか血がジェルの代わりになっ
て、
リョーマにとっては皮肉なことに千石の急な動きを助けていた。
展開が急すぎて、身体には痛みとしか伝達されない。そもそも、受け入れる器官として出来ていないのだ。
(いますぐやめろよ。バカっ!)
思念は伝わらずに、太腿に両手がかけられて更に押し開かれる。ずんと奥まで、一気に貫かれる。
「んん──っ!」
身体を支える力がなくなったリョーマは耳にいつまでも残る嫌な音を爪で奏でながら玄関扉からずり落ちて、膝から床に崩れ落ちる。千石と繋がりあっている
部分だけは上に上
げられたままなので、凄まじく卑猥な姿だった。激しい律動を余計に身体で感じてしまって、辛い。
「オトコノコは、便利だよね。感じてるか感じてないのか、わかっちゃうもん。演技とか出来ない」
ねぇ?
すっかり萎えているリョーマのそれに手を這わせて、手慣れた仕草で扱き上げる。
「さ、わんな!」
「痛いだけじゃ、イヤでしょ。それにさ、こういうプレーも楽しくない?」
クスクスと笑う。余裕が出て来たので、リョーマのいい所もぐいぐいと刺激してやる。
反応が途端に、変わる。
「ぁ、やぁ、だ」
「あ、イイ感じなんだ。リョーマくんって、身体はエッチなんだよ。もっと、素直になればいいのにー」
馴染んで来た中の感じからも、それは伝わってくる。リョーマだけが反抗するのだ。
結合部から、ぐちゅぐちゅとした粘着音。それに混じるように、押し殺した喘ぎ声。細い背骨を指でツーッとなぞると、中もびくびくと収縮する。
ソソラレルなぁ……と脳裏で思いながら、一度目の解放をした。
***
傷を癒している動物のように、リョーマはベットの中でじっとうずくまっている。様子を伺うように、そろっと顔を覗き込んで来た千石を無言でギロッ
と睨む。
「えー、野性の本能が暴走しちゃいました。リョーマくん、ゴメンね?」
とても謝っているとは、思えない態度。軽すぎる。
「素直に白状すれば、俺が許すとか思うなよ」
勝手しまくって、すごくムカツク。痛いし、疲れた。
「パンプキンモンブラン」
「へ?」
「駅前のケーキ屋。ホールで」
「はいはい。責任持って、俺が行って来ま〜す!」
「アンタが、全部が全部悪いんだろ!」
枕元のオレンジの犬のヌイグルミを投げつけた。
「そうです、そうです!」
さっと避けられ癪だったので、もう一つ投げたのにそれも交わされる。余計に苛ついたけど、動くと身体が痛いので、そっぽを向いて元のように丸まっ
た。
財布だけ持って、ばたばたと千石は部屋を出て行った。
「ケーキ買ってきたよ〜」
声がしたので、ずっと入っていたベットから這うようにして出てくる。
テーブルの上のケーキの箱を開けると、中身が潰れてぐしゃぐしゃになっていた。カボチャのペーストが箱の上部から横まで、盛大に飛んでいる。
千石の顔の右頬の上部分が少し赤く腫れている。原因が大方わかって、はぁとため息を吐く。
「……ほんの数十分の場所で、なんで怪我なんでして帰ってくるわけ?」
「あはっ。ちょっと不覚取っちゃってさ。いつもは平気なんだけどね」
軽やかに照れ笑いをする千石。
そう言う問題じゃないのだ。
「バッカじゃない」
バカ、バカ、バカ、バカ、……。
ひたすら連呼する。
この男を放って置けない自分が一番のバカだと思いながら、添付のプラスチックのフォークでケーキのような物体を口に放り込んだ。
「俺、アンタのこと好きな理由がつくづくわかんなくなった……」
ケーキらしき物が残り三分の一くらいになって、ぼそっと呟く。
「それくらい、俺のことが好きなんじゃない?」
ニコニコと笑って、千石は自分を指す。
「いい気になんなよ。嫌いになる理由は、たくさんあるんだからな!」
「──でもさ、好きなんでしょ?」
千石のその顔があまりにも嬉しそうなんで、
「………………すごく悔しいんだけど、………………………そう…なのかも」
口惜しげに、唇をぎっと噛みしめる。
全然可愛げのないこんな顔が、千石には最高に可愛くみえた。
「俺、リョーマくんのこと殺しちゃいたいくらい大好きだなぁ」
さらっと笑顔で口にした言葉が、まんざら冗談に聞こえないのが大問題だ。
「その危ない発言はよせ!」
「さっきは、マジメンゴ。ちょっと余裕がなくって」
「だから!」
またもや、押し倒されそうになる。今度は、ベッドの上だ。
だからいいとか、そういう問題じゃない。
「今度は余裕もあるし、気持ちよくて泣いちゃうくらいたっぷり舐めて優しくしてあげる」
薄っすらと開けた唇から赤い舌を覗かせて、甘いクリームまみれのリョーマの唇からクリームを舐めとる。
「しなくていい!」
「リョーマくんも不完全燃焼だと気持ち悪いでしょ。俺もさ、血見たらまた滾ってきちゃって」
男って、単純だよねと言って、あははっと頭をかきながら軽く笑う。リョーマの足の間に身体を入れて、押し開く。衣服を着けていないリョーマは、またもや
美味しく頂かれそうだった。
(アンタの欲望解消が、結局はメインだろうが!)
素直すぎるだけに、憎めない。ムカツクけど、好きで。
何をするのかわからなくて、放っても置けない。それは、好きだから。
好きじゃなかったら、こんな節操がなくて危ない男の側に来ない。好きだから、余計にタチが悪い。
好きじゃなかったら、よかったのに。好きだから困るし、だからこそ、その感情の分だけムカツク。
「……痛いって言ったら、絶対すぐやめてよ」
さっき痛めてきたらしい赤くなっている頬を手でつねりながら、千石に言い聞かせる。
「了解!」
この笑顔が全然信用出来ないんだろうなと思ったけど、キスが優しかったので身を任せることにした。
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ハロウィーンの定番パターンを、初クロスミで!
どこまでリョマに許容されるかいつも試している迷惑なクロスミ。意外と、ラブラブです。
06.10.31予定が、06.11.07