──キミの愛を量るメジャーが欲しいです。
オレがそんな事を、神様に願ってしまうのも無理はない。
オレが何回も何百回も好きって伝えているのに、返って来るキミからの答えはいつもクールなもの。
通常涼しい顔でスルーしてくれちゃうし、何らかの返答が返って来ればまだいい方。
例え、バカの一言だとしても。無視よりはいい。……いや、多分。
俺もなんて肯定的な答えがキミから返って来た日は、スペシャルラッキーデーになる事は確実だ。
オレはキミのことがこんな愛のメジャーじゃ量りきれない位、大好きだけど……。
じゃあ、キミはどれくらいオレのことが好きなの?
目に見えないから、わからない。
言ってくれないから、わからない。
キミの心だけは、まったくもってわからない。
いままで他の誰の心も気にした事がなかったのに、キミのことは黒子の数だってなんだって把握しておきたい。
たまには、言って欲しい。
たまには、愛のフィードバックが欲しい。
たまには、どれくらい愛があるのかキミを問いつめて確めたくなる。
愛を量るメジャーと名付けた普通のメジャーを手に持って、何度目かの溜め息。
キミの身長は、151cm。オレの身長は、170cm。オレの方が、キミより19cm高い。
こんな風に眼に見えて、愛も解ったらいいのに。
家庭科の宿題をする為に裁縫箱から出ていたメジャーを、リョーマの机の上にそっと戻した。
「──ねえ、リョーマくん。愛が量れるメジャーがあったらいいと思わない?」
小物入れの布を裁断するのにさっきのメジャーで測っているリョーマを見て、先程から考えていた事を呟いた。
また、この男が変な事を考えている。簡易テーブルの向かいに座っている千石を、ちらりと見た。
いちいち、そういうのにつきあっていたらキリが無い位なのだが……。
チャコペンで布に目印となる線を引いた後に、ようやく千石の方へ顔をあげる。
「そんな物量れたら、つまんないと思わない? っていうか、鬱陶しいよ」
「なんで? あったらロマンティックで、いいじゃん。二人を結ぶ愛の絆が眼に見えてわかるんだよ!」
最大限まで伸ばしたメジャーを、リョーマと自分の身体を一周するようにくるっと巻きつける。
「愛が先月より5cmも減ってる!とか、アンタが大騒ぎするのが眼に見えてるしさ。そういうの、ウザイ」
メジャーの輪からするっと抜け出して、冷たい眼でじとっと睨みつけた。
「うっ、ウザイって……」
傷ついた顔をする千石を見ると、少し言い過ぎたかと思ったので、リョーマはフォローをつけ加えていく。
リョーマがそんなフォローをするのは恋人だけだと言うのに、それに千石は気づかなかった。
千石にも見えていないものがあるのかもしれない。
「──いま少しでもあるかもしれない愛を大事にする方がいいと思うな」
リョーマの最後の駄目押しとなる一言に、千石は見事にしてやられた。
「愛……、愛かぁー……」
うふふっと笑いながら、愛という言葉の甘い響きに頬を緩ませた。
そんな物で量られてたまるか。
俺のアンタへの愛は、そんなもんじゃ量れないくらい規格外なんだよ。
量る必要などない愛のメジャーを裁縫箱の奥へ仕舞いこんで、蓋を閉める。
半端ではない愛を解らせてやる為に、男の無防備な首筋へ噛みつくようにキスをした。
チャコペンが懐かしいのです。行動は惜しまないのに、言葉を出し惜しむリョーマです。
05.12.26 up
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